
京都の祇園にy gionという興味深いビルがオープンした。かつて森田恭通さんの事務所、グラマラスに在籍したデザイナーの井上拓馬氏がリノベーションとディレクションを担当。スナックやバーが入っていた"雑居ビル"を劇的に変化させた。雑居ではなく、ZAKKYO。入居者を選べないが故に統一感が失われ、呑み屋の集合体でしかなかった雑居ビルを、デザインの力で、入りたい人を選別し、ビルにとっても入居者にとってもブランディングとなる空間に昇華させたのだ。しかも、井上氏が"ZAKKYO"という言葉を継承するのは、その感覚の本質、つまり多様性を重要視しているからに他ならない。そもそも彼は、このy gionを賃貸ビルだとは考ていない。彼は多様な業種、多様な人種、多様な世代が集う"場"が成立するように、アート、音楽、ファッションに主軸を置いたテナント選びや企画を展開している。そして、ルーフトップ・バー、イベント・スペース、オープン・キッチンを常設することによって、ZAKKYOでの体験と交流をも視野に入れているのだ。それぞれのスペースが独立独歩で経営するのではなく、共有スペースを有効活用することで、多様性が交わり、"新しい何か"が誘発されるに違いない。
現状、屋上に京都の人気店sourのポップ・アップ・ショップ、sour gardenが先月から先行オープン。11月3日にグランド・オープンを迎え、11月11日には世界で注目を集める映像+サウンド・デュオNONOTAKのトーク・イベントとライブ・パフォーマンスが清水寺のライト・アップ・オープニングのアフター・パーティーとして行われた。そして、11月13日にはイギリスのジャズDJ、ジャイルス・ピーターソンが運営するインターネット・ラジオ"World Wide FM"の支局としてオリジナル・プログラム"WWKYOTO(ダブリュー・ダブリュー・キョート)"が世界配信をスタート。11月14日〜21日は完全提案型無店舗花屋MAESTROの綛谷武史さんの個展"枝と技"が開催。期間中の17日には音楽制作集団JAZZY SPORTの小林雅也氏がDJを担当、17日、18日には料理家の船越雅代さんが特別メニューを提供した。今後は、11月23〜26日が精緻な柄を爪で織りあげる「爪掻本綴織(つめかきほんつづれおり)」の伝統工芸士、小玉紫泉さんの展覧会"美しき地球"が控えているし、ラインが際立つ幾何学的な作風で知られるアーティストBAKIBAKIこと山尾光平と京都を拠点にモノクロームでVoid(虚空)を描くDaijiro Hamaの二人展も決定している。更には、y gionが来年度の国際写真展KYOTOGRAPHIEの会場の候補にもなり、JAZZY SPORT祇園店オープンの噂もあるなど興味深い企画が目白押しなのだ。
とにかく、一貫してクリエイティヴであることを希求し、攻めの姿勢で次々とイベントや展覧会を仕掛けるY GIONには、今まで京都にはなかった発信型の空間として大きな期待が寄せられている。ギャラリーであり、レストランであり、クラブであり、ラジオ局でもある新時代の"ZAKKYO"。言葉の意味だけでなく、文化施設のあり方をも変える可能性を秘めている。京都を更に魅力的にする場所が誕生した。


