
今から20年前のことだ。NYの60トンプソンというホテルに泊まった際、バーで友人がDJをしていた。
偶然の再会に驚いたが、何よりもその混雑と音量は衝撃的だった。音が大きかったのではない。決して爆音ではないのに、ノレる音量。しかも集まった人が着飾り、とても楽しそうだった。折しも、デザイン・ホテルのブームが到来し、"ラウンジ"という音楽ジャンル(ボサ・ノバからサントラ、モンド・ミュージックを含む60年代風サウンド或はそれらを模した新譜)やDJスタイル(クラブではなくホテルのロビーやラウンジでのプレイ或はそうした空間を想定したダンスさせることを目的としないDJプレイ)も注目されていた。そういった流れもありデザイン・ホテルの代表格であったSOHOグランド・ホテルでのラウンジ・イベントが友人達の間でも話題になっていた。
あれから時は過ぎ、デザイン・ホテルの世界も高級店からACE HOTEL以降のカジュアル/ヒップ・スター型へとトレンドが移行して行った。そして、宿泊客へのサービス提供、或はニュース発信やブランディング、又、深夜の雇用創出など様々な目的を担った音楽イベントが世界中のホテルで開催されつつある。ロンドンのACE HOTELの地下でもDJイベントは行われていたし、NYのSTANDARD HOTELでもかつて日本に在住したALEX FROM TOKYOらがプレイしている。
ホテルのベニュー(会場)活用が、再び脚光を浴びているのは、ナイトクラブの変化と関係しているに違いない。特に日本では・・・。そもそも"若者が行く場所"という偏見に晒されて来たナイトクラブが、EDMの爆発的人気やアメリカのヒット・チャートと連動するようになり、"若者が騒ぎに行く場所"という更なる誤解(それは一部のクラブでの現象であって、全てのクラブに当てはまらない)に晒されている。故に、ただでさえ足を運びにくかった音楽好き、しかもクラブ好きの大人の敬遠に拍車はかかるばかりだ。一方、風営法の改正後、飲食店やホテルは深夜帯の新たな収益確保という観点から、コンテンツに欠かせない音楽イベントに熱い視線が送られているという話も聞く。こうした、夜遊びを巡る状況の変遷の中で、泊まるだけでなく、遊ぶ場所としてのホテルの可能性が浮上してくるのは当然のことかもしれない。
奇しくも先月末には、僕の朋友、モンド・グロッソの大沢伸一氏が渋谷のTRUNK HOTELで、そして、僕、沖野修也がセルリアンタワー・ホテルで仮面舞踏会を行った。共に大人の為のハロウィン・パーティーという触れ込みで、"街中で騒ぐのは抵抗がある"音楽好きをホテルに誘導したのだ。ホテルというハードルが来場者を選ぶフィルターになっているし、クラブのバウンサーにありがちな柄の悪いセキュリティーもいない。ドレス・アップする機会を日常に持ち込むという意味でもホテルほど大人の社交場に適している空間はないのではないだろうか。
これまでも僕は、ハイアット・リージェンシーで行われたKYOTOGRAPHIEという国際写真展のオープニング・パーティーでもDJやライブを行って来たし、汐留のCONRADでは、ゴードン・ラムゼイ氏の為のBGMの選曲を手掛けたりもした。来月にはPARK HYATTでKYOTO JAZZ SEXTETに元ブラン・ニュー・ヘビーズのN'Dea Davenportをフィーチャーしたスペシャルなパーティーを行う予定だ。彼女と知り合って25年以上。何度か録音やステージでの共演はあったが、彼女に"ジャズ"を歌ってもらうのは初の試みとなる。DJを28年続けて来た僕にとっても今やホテルは重要な活動の拠点となっているのだ。
何も僕はクラブを否定しているのではない。暗闇の中で大音量に没頭するという醍醐味は今も大好きだ。それでも、かつて足繁く通ってくれた大人の音楽好きがクラブから離れていることを嘆いてばかりいるのではなく、DJのみならず、スタッフやオーガナイザーがホテルでどんどんクラブ・スタイルのイベントを開催すればいいと思う。そして、逆にホテルから色々ななことを学ぶべきだと考えている。ホテルの接客をそのままクラブに導入しなくても良いとは思うけれど、異業種のサービスにはヒントがあるに違いない。また、取り壊しが決まったビルにサウンド・システムを持ち込んだ"ウェアハウス"的な内装がいかに時代遅れとなっていることにも気付くだろう(未だにそれにお憧れている人もす少なくない)。ジャンクな雰囲気が格好良かった時代があるのは否定しないけれど、"イケている場所"としての世の中的なニーズは、完全にデザイン・ホテルに持って行かれているのが現実。ならばそこから得られるインスピレーションもある筈だ。
ホテルはクラブ・カルチャーやDJを活用し、ナイト・クラブはホテルと協業できるだろう。又、ホテルからヒントを持ち帰ってクラブを進化させればいい。防音や宿泊客とのトラブルの回避はホテルの課題となるが、その対応が基本設備や、日常業務となるのが望ましい。ホテルのベニュー活用はホテルにメリットをもたらすだけでなく、新たなナイト・カルチャーを作り上げることだろう。更には、DJ達を育んで来たナイト・クラブにも刺激を与えることになる。そして、何よりも、大人の音楽好きを楽しませることが出来るに違いない。

KYOTO JAZZ SEXTET featuring N’Dea Davenport Special Live at New York Bar
日 程: 2017 年 12 月 3 日 (日)
会 場: パーク ハイアット 東京 52 階 「ニューヨーク バー」
時 間: 第 1 部 受付開始 午後 7 時
開演 午後 7 時 30 分~午後 8 時 45 分
第 2 部 受付開始 午後 9 時 30 分
開演 午後 10 時~午後 11 時 15 分
料 金: カウンター席 おひとり様 3,500 円
テーブル席 おひとり様 7,000 円 ※グラスシャンパン(おひとり様 1 杯)込み。
※テーブル席は、1 卓につき 2 名様、4 名様、6 名様のいずれかでのみ
承ります。奇数人数でのご予約は承れませんのでご了承ください。
※ 税別、カバーチャージ込み。
※ 全席予約制。
※ 上記営業時間および料金は通常営業とは異なり、12 月 3 日当日のみ適用されます。
ご予約・お問い合わせ: パーク ハイアット 東京 52 階「ニューヨーク バー」
〒163-1055 東京都新宿区西新宿 3-7-1-2
TEL 03-5323-3458
※20歳以上の方のみご参加いただけます