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3つの「ロンリーガール」:さようならECD

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ラッパーのECDが進行性のがんを患っていることを一昨年に公表したとき、克服できるのではないかとぼくは根拠なく思った。かつて致命的なアルコール中毒に陥りながらも見事に生還したことを、彼の著作で読んでいたからかもしれない。

2017年になってYouTubeで発表されたECDの闘病ドキュメンタリーからは、事態が深刻であることが伝わってきたが、悪いニュースばかりでもなかった。一時退院中の自宅で依頼された仕事のためにラップを録音するECD。身体は痛々しく痩せ細っていたが、声はしっかり出ていた。

そのラップは、春になって加山雄三のトリビュート盤の一曲として収められた。自分史めいた歌詞と感動的なトラックはエンディングテーマのようで、誰が聴いてもいい曲だ。

君といつまでも(Together forever Mix) Amazon


新曲が聴けて嬉しかったが、もしこれが最後のリリースになったらイヤだな、とも思った。なにしろ曲は「君といつまでも」だし、孤軍奮闘してきたECDのラストには相応しくないように思えたのだ。そして実際、そうはならなかった。


ところでECDの代表曲といえば「ECDのロンリーガール」だ(異論は代替案によっては認める)。ここで話は20年前にさかのぼる。1997年リリースのこの曲は、当時の女子高生ブームの裏面にあった児童売春の問題をテーマに、少女たちに自立をうながすシリアスな内容だった。松本隆の詞を引用したものとはいえ、当時の享楽的な女子高生たちを「ロンリーガール=さびしい女」と評する感性に驚いたことを憶えている。

ECDのロンリー・ガール(『BIG YOUTH』:Amazon


その8年後、女子高生シンガーからECDへのアンサーソングということで、加藤ミリヤが「ディア ロンリーガール」を発表する。「わかったような顔でこっちみないで」と16歳のロンリーガール代表に反論されれば、オリジナルの真摯なメッセージもおじさんの「余計なお世話」のように聴こえてしまう。おじさんの側に立つぼくもいい気分はしなかった。

ディア ロンリーガールAmazon


知る限り、ECDは加藤ミリヤについて否定も肯定もしなかったと思う。いずれにせよ、この曲をきっかけに脚光を浴びることになった「ECDのロンリーガール」を、ECD自身がライブなどで取り上げることはほとんどなかったようだ。2013年には「NO LG」と題した曲で、もう「ロンリーガール」は歌わないことをわざわざ宣言していた。

NO LG(『The Bridge-明日に架ける橋』: Amazon


そんな経緯があったので、2017年の12月になって加藤ミリヤが「ディア ロンリーガール」をリメイクし、そこにECDが参加していることはかなり意外だった。おもしろいことに、12年前には怒れるロンリーガールだった加藤ミリヤが今回は少女たちを説教する側にまわっている。中盤に登場するECDのラップは、20年前とほぼ同じ歌詞だ。今回も同じように少女たちに自立をうながし「20年経っても変わりゃしねえ」と締める。

新約ディアロンリーガール feat.ECDAmazon


結果的にこの「新約ディア ロンリーガール」は、ECDが生前最後にリリースしたラップとなった。いろいろ事情はあったのかもしれないが、ECD自身がこの“代表曲”にまつわるモヤモヤにケリをつける形になってよかった。

加藤ミリヤついては先に書いたようにいい印象はなかったのだけれど、今回の「ロンリーガール」で少女たちの名前を連呼するパートにECDのふたりの娘の名前を発見して、「余計なお世話」と思いながらもグッときてしまった。泣いてるんじゃないよ。

ECDは技巧的なラッパーではなかったけれど、そのパンチラインの強度を今では誰もが知っている。安倍晋三だって痛感してる。

知らなかったならすぐ聴くべきだ。「早く立ち上がれ」という言葉がロンリーガールだけに向けられたものでないと気付いたとしても、もう彼はこの世にいないのだが。


文とフォトショップ:堀川フミアキ


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